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Interview Vol.01


逸流女将の会文化講座事始め


今回は、「逸流女将の会文化講座」の伝え人から、岡副徳子(おかぞえのりこ)さん、千谷美恵(ちたにみえ)さん、住吉美紀(すみよしみき)さんの3名が金田中(かねたなか)に集い、本年始動した文化講座に対する想いや、日本文化との触れ合いについて語り合いました。


はじめに


住吉:「逸流女将の会文化講座」のサイトがついに始まりました!初のインタビュー企画ということもあり、まずは皆さん、自己紹介をお願いします。


岡副:岡副徳子と申します。銀座にある「金田中(かねたなか)」という料亭の女将です。金田中は大正時代の創業で、私が四代目になります。


千谷:千谷美恵と申します。「銀座いせよし」という和服創案店の経営と着物のデザインをしております。若い方や着物初心者の方に向けて、入りやすく気軽にお話ができるような空間を創りたいと思い、2009年に店を開店致しました。


住吉:フリーアナウンサーの住吉美紀です。女将ではない私もご縁あって参加させていただいております。私は小さい頃海外で育ったので、日本文化については本当に知らないことばかりで、触れないまま人生を終えるだろうと考えていました。でも、フリーランスになってから、着物や食、生活文化など、ご縁から日本文化にどんどん興味が湧いてきて。最近は、日本ってなんて素敵な価値観に溢れているんだろうと思う日々だったので、とても興味深く「逸流女将の会」で勉強しております。




「逸流女将の会」について


住吉:ところで、これまで「逸流女将の会」は、発信するというよりは自分たちのために勉強を続けてきた会ですよね。それぞれご商売とか専門のお仕事をお持ちの皆さんが、毎日身を浸してその素敵さを感じる日本文化をもっと学びたいということで、文化講座の後見人にもなっていただいている岡本彰夫(おかもとあきお)先生のもとに集まったのが会の始まりと伺っていますが。


岡副:そうですね。本物の日本文化を知り、本物の女将になるという目的で岡本先生のもとへ集まった人々で「逸流女将の会」が発足したわけですが、一番の始まりは、まず千谷さんが岡本先生のお知り合いで、そこからでしたよね。


千谷:はい。私が岡本先生に色々教えていただき始めたのが、13〜14年前ですね。以前は奈良の方に伺って勉強させていただいていたんですけれども。その流れで「逸流女将の会」がはじまり、今では会員20人超えたかな。


住吉:私が参加するようになって、まずそのメンバーの凄さに驚きました。お二人のように料亭や着物関係の方も居れば、能や歌舞伎、食文化、菓子、工芸、美術、旅館などなど、最前線で日本文化を支えている多方面の方々が集まっている。皆さん、それぞれに素敵なお仕事をされていて、日本文化が大好きな人たちですよね。そして、皆さんのご経歴が、面白い。少しずつ知り合いになって、知れば知る程に、皆さんの人生そのものも興味深いと感じています。せっかくなので、今日はお二人それぞれの個人像にも迫りたいなと思います。


岡副徳子
2015年先代女将の後を継ぎ、金田中の女将として料亭文化を守るべく日々努めている。慶應義塾大学法学部卒業後、日本 IBM 株式会社勤務を経て、金田中 四代目 岡副真吾と結婚。金田中の若女将となる。料亭「金田中」のほか、銀座にすき焼き・鉄板焼「岡半本店」、カウンター割烹「金田中庵」、表参道に和カフェ「茶洒 金田中」と様々なスタイルの店舗を展開している。


住吉:岡副さんは外資系の会社員から金田中さんの女将になられたと伺ってますが、どのようなきっかけだったのですか。


岡副:私の場合は、料亭がどういうところかをよく知らないで、料亭の息子だった学校の同級生と結婚してしまったんです(笑)。料亭というと女将が顔じゃないですか。「何の教育も受けていない人間が嫁いだら迷惑になるからやめなさい」と反対されたんですが、「そんなことないわよ!」と反対を押し切って、女将人生が始まりました。


住吉:「してしまった」(笑)。お嫁入りされて、同時に、ご家業なので当然、手伝ったり学んだりという日々ですよね。入られた直後はいかがでしたか。


岡副:最初は「しまったな...」って凄く思いまして。まず金田中は、総合的な日本の伝統文化が、本当に色々と凝縮されている場所なんです。例えばお食事やお座敷はもちろん、お香であったり、お茶であったり、床の間にはお軸が掛かりお花が生けてあります。まずそういうことを全然知らなかった。その上、ここはプライドを持ってお仕事されている芸者衆がいる花柳界なので、昨日今日来た私に対しては、何も知らないくせに、みたいな雰囲気が凄く漂っていて。それでも、5年くらい経って、初めてカウンターのお店を主人と一緒に創ったことが、私が仕事をやろうと思った原点になりますね。当たり前なんですが、一生懸命やるとお客さんが来てくれて、自分のやったことが返ってくるって思いまして。そうやって、少しずつ慣れていったという感じです。


住吉:女将のお仕事を続けてこられて、日本文化の見え方は変わりましたか。


岡副:料亭に長くおりますと、やはり日本の色々な奥深さが分かってきて。これは続けていかないと、やめてしまったらなくなってしまう、二度と作れないって思うところが大きいので、岡本先生には良い機会を与えていただいています。


住吉:なるほど、日本文化継承という意味でも、料亭の役割はますます大きいですね。


岡副:そうですね。ただ料亭は居心地の良い場所であったり、楽しんでいただく場所なので、そういう雰囲気を作っていきたいと思います。しかし、それにはやはり岡本先生がよくおっしゃっているように、その中にある、さり気ないお座敷のしつらいやお料理、もてなしなどが本物でないといけないと。その本物を残していくことが大事かなと思います。


千谷:何不自由ないお嬢さんがお嫁にきて女将さんを立派にされていて偉いなと私はいつも思って。


岡副:そんな、いやいやそんな、とんでもないです。



住吉:ところで、お二人は何年来のご縁でしょうか。出会いのきっかけは覚えていますか。


千谷:20年くらい?「銀座の会」がここで行われた時が最初だったのかな。それで気が合って夜お食事をご一緒したり。同年代なので。


岡副:銀座のこの辺は商店が多くて繋がりが結構あるんですね。そういう会で知り合って。


住吉:千谷さんは今ご自身のお店で、と先程も自己紹介されていたんですけれど、もともとご実家が銀座で歴史ある呉服屋「伊勢由(いせよし)」さんでいらっしゃいますものね。


千谷 美恵
きものデザイナー。2009年和服創案店「銀座いせよし」を開店。匠の職人技にこだわり、オリジナル着物や和こものをプロデュース製作販売。また、2007年より日本文化を紹介する「銀座で小さな和講座」を400回以上開催している。153年続く「伊勢由」の三女として生まれ、ウェスタンミシガン州立大学教育科、立教大学文学部教育学科卒業後、外資系金融のシティバンクに入行。実家の呉服屋を継いだ後、独立。


千谷:そうですね。五代続いている中で二代目からが浴衣、和こものを扱い、さらに紐解いてみると、どの代もそれぞれ自分なりのやり方でやっている。そういう意味では初代五人が暖簾の元でつながり歴史になった感じだと思うんです。


岡副:素晴らしい!


住吉:その中で、美恵さんもご自身の道を歩んでいらっしゃいます。最初は外資系の銀行にお勤めで、ご家業と関係ないキャリアにいらしたんですものね。それがどのように、お気持ちが日本文化へ戻ってきたのでしょうか。


千谷:子供の頃から触れてはいたものの、外国の方の目のようにというか、いったん外に出て見て、日本の文化って良いものだなと感じたことがきっかけです。会社に勤めてからお習字を習ったり、お茶を習ったりして、精神のバランスを保っていたようなところがありました。そこから改めて伝統文化の大ファンになって、実家の呉服店を継ごうと決心しました。その後自分自身が本物を広く勉強したいために、当時は狭き門をたたくしかなかった日本文化の間口を開いて、各分野の家元や一流の先生方を講師としてお招きし、少人数で短時間、質問もしやすい雰囲気で日本文化を学べる「銀座で小さな和講座」を開きました。すると知れば知るほど日本文化は繋がっていて共通の真髄も感じて、それを参加者と共感できることが楽しくて、店を独立して開店してからも続けています。


住吉:ご自身のお友達も来てくれるようなお店を目指したいと独立されたそうですね。


千谷:はい。実家にいた時は、「あなたのお店は老舗だから気軽には入りにくい」と言われるのが残念で。そういう意味では家に遊びに来ていただけるような雰囲気を作りながら、日々の生活で私自身が楽しいと感じることを、着物だけでなく他の和の文化について伝えたいというのも、独立の理由の一つです。


住吉:海外の視点を身につけて、日本文化を見つめ直した時に、あ、すごいと改めて感動したエピソードはありますか。


千谷:そうですね。アメリカの会社に勤めていた時は、全てが合理的でスピードがあり、いいなあと思っていました。でも改めてお茶のお点前などを見ると、動作はゆったりながら合理的で美しい。また着物は決まりごとが多く難しいと思われますが、色合わせや柄合わせがわりと自由です。旅行に行く時、着物の方が実は荷物が少なく済むんですよ。お洋服だと、このブラウスにはこのスカートとこの靴、バッグというように、何組か組み合わせを考え、寒さ暑さの対策も必要です。着物だとどの着物にもバッグや履物は一種類で十分です。また着物が体温調節をしてくれるので、気温にも左右されません。日本文化は基本的なルールさえ守れば、凄く自由でふところが大きい。




日本文化に新しい価値観を


岡副:今の若い方々は、着物を着るのは大仕事みたいな感じで、着物から離れてしまうところがあると思うんですけれど、一度覚えてしまうと、こんなに楽で理にかなったものはないですよね。


千谷:そうですね。私の場合は、30年くらい着ている制服のような着物がありますが、皆さん、「またそれ着て来たの!」とは仰らないですね。着物は同じでも、帯が変わると印象はがらりと変わるし、歳が変わると見え方も変わってくるものです。


岡副:そうそう、帯を変えるだけで全然表情が変わりますもんね。


千谷:究極のSDGs。自分より着物の方が寿命が長いんです。ちなみに、今日の着物は叔母のです。


岡副:私も、母親の着物です。人間が環境を壊してると言われていますが、着物って代々受け継がれて、駄目になれば手ぬぐいや雑巾にまでできて、本当に大事に使われている。これって今一番求められていることですよね。


千谷:そうですよね。私、子供の時は着物に綿を入れたお布団に寝ていました。


住吉:リメイクしたということですか。リサイクル・リメイク・リユースですね。


千谷:そうですね。だからお布団はこうやって手を入れてかけるような感じで。


住吉:ああ、暖かくて良いですね。


岡副:私も寝てました、手を入れてかけるような。古くなった着物を利用して作ったんですよね。


千谷:膝掛けになったり、姿見や電話のカバーになったり…


住吉:日本文化というと、教科書を開いて日本史を端から学んでいくようなちょっと堅苦しい印象があるかもしれませんが、でも女将の皆さんが伝えていく文化は、生きている文化ですよね。今だとSDGsとかリユースだよとか。古いけど新しい価値観であることをシェアできますよね。


千谷:それこそ着物はたくさんの工程を職人さんがそれぞれ分業して一枚を作りあげるんです。これは究極のワークシェアで、誰も仕事を奪い合わない。




逸流女将の会文化講座で伝えたいこと


住吉 美紀
小学時代はアメリカ・シアトル、高校時代はカナダ・バンクーバーで暮らす。国際基督教大学(ICU)卒業後、アナウンサーとしてNHK入局。 「プロフェッショナル 仕事の流儀」「アートエンタテインメント 迷宮美術館」「第58回NHK紅白歌合戦」「ハイビジョン生中継世界遺産の旅」など担当し、2011年よりフリーに。2012年よりTokyo FM朝の情報ワイド番組「Blue Ocean」(月~金、9:00~11:00)のパーソナリティを務めている。著者に「自分へのごほうび」(幻冬舎)。


住吉:ところで、「逸流女将の会文化講座」では、今後どのような活動をされたいのか、読者の方々にメッセージをお願いします。


岡副:これまでは自分たちが研鑽を積む活動を続けてまいりましたが、コロナ禍になって、「こういう時代こそ、何か種をまいて、日本の未来へ繋がるようなことをみんなで考えなさい」と岡本先生に背中を押していただき、私たちができることを発信していこうと、「逸流女将の会文化講座」を始めたわけです。まだまだ手探りですが、講座を通して私たちが教えるっていうよりも、色々な業種の女将たちそれぞれの「こういうことが楽しいよ」とか「とても便利で良いんだよ」とかを伝えたいですね。それをきっかけに、じゃあちょっと着物を着てみようかなとか、あれを食べに行こうかなとか、踊りを見に行こうかなってことへ繋がっていけば良いかなと。


千谷:日々の生活の楽しみをお伝えしたいと考えています。特別なイベントをつくらなくても毎日の暮らしを楽しめる要素が日本文化の中に色々あるんです。身の回りのことを楽しむ、愛でる、そしてそれを共感し合うことで、日常が豊かになる。自分たちが学ぶだけにとどまらず若い世代の方々に伝える使命も感じます。


岡副:それはありますよね。例えば、金田中には畳や床の間がありますが、多くの住宅にはもう和室がありません。若い方々にとって床の間は非日常かもしれませんが、でも、自宅のちょっとした片隅に季節のものを飾るだけで、お部屋の中でも四季を感じられる。家にいる時間が豊かになると思うので、そういうことを楽しもうという気持ちになる若い方が、この講座を通じてどんどん増えてきたら良いですよね。


千谷:そういえば、「会社で色々と悩んでいたことが、料亭の畳に座るだけで、解決のアイデアが湧いてくる」ってお客様がおっしゃってました。


岡副:お香を焚くだけで気持ちが、おさまるというかスッとなれるというか。日本の和のものって精神的なところで凄く落ち着けます。毎日ちょっとしたことを取り入れると、楽しくなるんですよ。


住吉:女将って、お仕事をされている女性の呼び名ですけれど、世の中の価値観がどんどんジェンダーレスになってきていることを考えると、性別関係なく、感性で繋がれる場になると良いなと私は感じています。あと私は、あまりご存知ない方や触れてこなかった方と、女将の皆さんや日本文化とのインターフェイスになる形で、自分の心が浮き立ったり動いたりしたことが共感に繋がるといいなって思っています。


岡副:すごく良いですね。


住吉:でも私自身、日本文化の一つ一つに触れるたびに感動と発見があって、こんなに人生が豊かになるなんて思ってもいませんでした。面白いのが、人間って感動や発見があると、予期せぬところも変化していくんです。例えば、お茶が大好きでお稽古に通っていますが、湯返しで釜に柄杓でお湯を返す時にわざとちょろちょろと音をさせることがあるのですが、これは空間を演出して、お客様に心地良い音だなと感じてもらう意図もあるんです。その発想に「もう素敵!」って感動して。そうすると、家に帰って蛇口をひねったとき、窓の外の雨の音を聞いたとき、なんだか水の音って表情があって、生活にあると素敵なものなのだなと感じとれるようになりました。


千谷:わかる。水槽や洗濯機でさえも、「この水の音良い!」みたいな(笑)。


住吉:そうです。本当に色々なことが変わるんですよ。お着物も美恵さんのおかげで大好きになって、今自分でも驚くほど着付けも大好きになったんですが、八掛(はっかけ)とか、めくれたときの色の綺麗さを考えるとか。


岡副:この裏にこだわったりとかね。


住吉:はい。着物って贅沢!って思って。そうするとお洋服を着るときにも、歩くときに揺れるとこうなるかなという発想が生まれるなど、ひとつ日本文化における発見をしただけで、色々な人生の変化があるっていうのがとにかく楽しいので、私はまだ日本文化に触れていない方が、羨ましいくらいです。ぜひ「逸流女将の会文化講座」で日本文化の何かしらに触れていただきたいと思っています。


岡副:そうですね。色々な分野の方がいるので最初の突破口として何に興味を持つかっていうのがあると思うんですが、一つ始めると、じゃあこれもやってみようかなと広がっていきます。



おわりに


千谷:日本文化って人を思いやるという前提があるので、「逸流女将の会」でこうやって仲良くできるのも、みんなそれぞれ日本文化の心のベースがあるからかなと思います。


岡副:本当にとても良い人間関係。みんな凄く親しくさせていただいて、それも感謝ですね。


住吉:まだまだどんな旅路、道のりになるか分かりませんが、何か良いご縁が「逸流女将の会」から広がると良いですね。


岡副:そうですね。この会を通じて日本文化の楽しさや豊かさの発見をしてもらえたら良いですね。


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